事業承継問題が大幅に改善
2021年の全国全業種約26万6,000社における後継者の動向調査によると、後継者が「いない」または「未定」とした企業が約16万社に上ったことがわかりました。
この結果、全国の後継者不在率は61.5%となり、2020年より3.6ポイント改善がみられ、4年連続で不在率が低下しました。調査を開始した2011年以降で最低となりました。
コロナ禍で事業を取り巻く環境が急激に変化する中、高齢代表の企業を中心に後継者決定の動きが強まったとされています。経営者の年代別にみると、ボリュームゾーンとなる60~80代以上では不在率が前年を下回り、特に80代以上では調査開始以降で初めて不在率3割を下回りました。
代表者の高齢化問題が深刻化するなか、若い世代、生え抜きの役員などを後任に任せたいと、後継者問題に対する経営者の心境の変化も影響しているとみられています。
後継者問題解決・改善に大きく寄与したものは、
①地域の金融機関を中心としたアプローチが徐々に成果を発揮し始めていること
②第三者へのM&A(企業の合併買収)や事業譲渡、ファンド(投資信託)を経由した経営再建併用の事業承継など、支援メニューが全国的に整ったこと
以上の2つだと考えられています。
後継者候補は脱ファミリーが加速
2017年以降の事業承継について、先代の経営者との関係性(就任経緯別)をみると、2021年の事業承継は「同族承継」により引き継いだ割合が38.3%に達し、全項目の中では最も高い結果でした。
しかし、2017年からは3.3ポイント低下しています。親族間の事業承継割合は緩やかに減少傾向をたどっているということです。
代わりに存在感があるのは、血縁関係によらない役員などを登用した「内部昇格」31.7%です。前年からは少し低下していますが、同族承継に次いで高い水準となっています。
また、買収や出向を中心とした「M&A」の割合が17.4%と、事業承継は同族間での引継ぎから、幹部社員などへシフト=脱ファミリーの動きが鮮明となっています。親族外の承継のうち、社外の第三者を代表として迎える「外部招聘(がいぶしょうへい)」の割合は7.6%を占めています。
全国約10万社の後継者候補の属性をみると、「子供」が最も高い割合で38.5%でした。前年からは1.9ポイントの減少で、子供を後継者とする割合が全体の4割を下回るのは調査開始以降初めてとなります。
「非同族」を後継者候補に位置付けているのは、「内部昇格」と「外部招聘」、買収などを含む「その他」となっています。「創業者」「同族承継」などのファミリー企業でも、「非同族」の事業承継=脱ファミリー化を考える割合が高まっています。
今後も高まる事業承継サポート
帝国データバンクが2021年8月に実施した調査では、新型コロナウイルスの影響で事業承継の意識が変化した企業の割合が対象全体の8.7%に上り、「コロナ禍でも、M&Aや後継者育成などで事業承継コンサルのニーズが旺盛」といった声があります。コロナ禍という未曾有の危機において、改めて自社の後継者問題と向き合った中小企業は多いとされています。
今後も国や地方自治体によるプル・プッシュ型の公的支援といった働きかけが継続されていけば、今後の後継者問題に対する意識が一層高まっていくと考えられます。
後継者候補のリサーチや育成、社長の個人的な能力に依存しているオーナー企業などでは、内部管理体制の構築や、引継ぎ前後の経営幹部人材の紹介・マッチングなど、それぞれの会社の承継ステージや課題に合わせた支援メニューの拡充にも目を向けていく必要があります。
参考:帝国データバンク「全国企業「後継者不在率」動向調査(2021年)」
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